本と本屋が世に存在してから連綿と出版され続ける、「本屋の本」。これをアーカイブ化することで本と本屋のガイドとするとともに、本屋という存在について考えるための視点を提供する、「本屋の本の本」プロジェクト。現在は10タイトルを紹介した(壱)号が刊行されています。当プロジェクトが執筆した新作原稿を、本屋報に不定期掲載していきます。
今回は『本屋な日々 青春編』(石橋毅史、トランスビュー)の書評です。
本屋の本、と括ってしまうのでは、ずいぶんと狭いなと思う。
本書は元業界紙編集長である著者が本屋の現場を取材したエッセイ集。ジャンルに意味はないけれど、ルポルタージュではなくエッセイのほうがしっくりくる。というのも、石橋は取材中、ちっとも冷静な聞き手ではないからだ。彼は迷う。たくさんの本を売ることと、一冊の本を売ることの境目で。彼は迷う。カフェと本屋を併設することについて。彼は迷う。突然店に行き、誰とも話せず帰る。彼は迷う。トークイベントで噛み合わない質問を繰り返す。文章のそこかしこに、石橋の人格がある。
「だが僕は、業界内の人だけに読んでもらうためにこれをまとめるのではないのだ。むしろ、客の立場の人にこそ読んでもらいたい。書店は変化を求められているが、それは客のほうにも言えることなのではないか。」こういうことを、正直に書いてしまう。
だけれども。だからこそ。石橋は「ともにする」という立場でその本屋のことばをすくい取る。沖縄の市場の古本屋ウララに立ち寄った彼は、一日目に定休日の店と周囲の様子を見て、翌日に朝から何時間でも店にいて、中抜けしてから夜に店主と飲む(もちろん飲みすぎる)。3日目に石垣島に訪れたあと、四日目にまたウララに赴き、ずっとそこにいる。急な予定で店主が店を離れてしまうと、石橋は斜向いの鰹節屋の店主と一緒に相撲を見て、東京に帰った。効率化されない付き合いから紡ぎ出される本屋のことば、それを石橋なりの筆致で書いていく。
本をどう売るかも、カフェへの持ち込みも、本屋の悩みだ。誰とも話せなかったのは、本屋が忙しかったからだ。石橋は、本屋の悩みを自分のこととして感じ、それでいつも悩んでいる。なんて誠実な向き合い方。だから、むしろ客の立場の人にこそ読んでもらいたい。そういう本だと思う。
text:雅子ユウ
「本屋な日々 青春篇 」
石橋毅史(著)
発行:トランスビュー
A5変型判 縦188mm 横148mm 312ページ 並製
価格 1,800円+税
ISBN:978-4-7987-0167-7
C0095
「本屋の本の本(壱)」
2018年5月6日初版発行
発行:BBB製作委員会 デザイン:中村圭佑(ampersands)
本屋の本の本(壱)取扱店のご案内 – 百書店
(収録作品)